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着物にサングラスというアンバランスな格好をしたおじさんに起こされた。
起き上がって周りを見ると、どうやらアスファルトの上で寝てたらしい。
おじさんにお礼を言って立ち上がり、パンパンと制服を叩く。
お日様の明るさにそぐわない肌の刺激。たぶん、今は朝なのだろう。
そのとき、ズキッと激痛が走る。二日酔いだ、気持ち悪。
その痛みにひきずられるように昨日の記憶がよみがえる。
そうだ、昨日は体育祭で優勝して、クラスで焼肉屋に行って打ち上げしたんだ。
お調子者の私は奴らにのせられて、飲めない酒をたくさん飲んで。
「う〜ん」
それからの記憶がまったくない。無理して酒飲むんじゃなかった。
険しい顔をする私を、おじさんが覗き込む。
「どうしたんだい?」
「いやあ、なんで私こんなところで寝ているかわからなくて」
「お嬢ちゃん酒臭いから、酔っ払って記憶ないんだろう」
「おじさんもよくやるよ」とおじさんは笑った。私も笑って答える。
「あ、これ落ちてたよ」
そう言っておじさんは鞄を渡してくれた。
「でもこんなとこで女の子が寝てちゃ危ないよ、気をつけるんだよ」
「はい、気をつけます、ありがとう」
サングラスのおじさんはそう言って去っていった。親切な人だ。
おじさんの後姿を追いながら、改めて周りを見る。
ここはどこなのだろう。見慣れない道だった。
見たことのない家たくさん並び、その向こうの角には団子屋さんがぽつんとある。
団子屋さんがぽつんとある町なんて、時代劇でしか見たことない。
追いかけておじさんに聞こうと思ったけど、彼の姿はもうなかった。
「ていうか、学校!」
思わず声にあげて私は走り出した。
たぶん酔っ払ってたわけだから、焼き肉屋からそう離れたところにいるまい。
とりあえずどっか大きい道に出たらわかるだろう。
団子屋の角を曲がると、人がたくさん歩いている道が見えた。
あそこに出てわかんなかったら誰かに聞こう。
けれど、スピードを増した私の足はすぐに止まった。
「え・・・?」
着物・・・?
男も女も着物を着ていて、それはまるで時代劇の光景だった。
「なに、ここ・・・」
さらにいえば、男はちょんまげの人なんかもいて、ごく当たり前のように歩いていて。
「邪魔だ、どけ」
後ろから突然言われ、私は慌ててどきながらその声の人を見る。
そして私はさらに目を開ける。
「い、いぬぅ!?」
「アァ?」
その、その人はどう見ても犬で。
細かく言うと、顔だけが犬で。
「なんだこの女、外の人間を見たことねえのか。どこの田舎モンだ」
「俺らはお前らの言う『天人』様だぜ、わかるか?」
「わ、わかりませんん!」
な、なにを言ってるんだこの犬たち。いや、人なのか?
混乱していると、そいつらは見下したように笑いながら去っていった。
ああ、そうか。私は夢を見ているんだ。
そう思い、思い切り頬をつねってみる。
痛い。
体は何かを確信したように、背筋がゾワッとする。
落ち着け、落ち着け自分。
そう言い聞かせながら、近くの電柱にもたれかかる。
電柱?
そういえばさっきのお犬さん、洋服着てたな。
江戸にタイムスリップしたというわけでもないらしい。
しかし、現代というわけでもない。
たぶん、たぶんだけど、もしもこれが夢でなかったら。
ごくっと唾を飲み込む。
私はどうやら、異世界に来てしまったらしい。
2009-03-06