染まるよ



...02


 グ〜キュルル・・・・・・・


 こんなときでもお腹は規則正しく減る。
とりあえず私は何か食べよう辺りを見回すと、看板が目に入る。「モーニング300円」。
ここにもモーニングなんてあるんだなあと思いながら喫茶店のドアを開けた。
中へ入ると店主が「いらっしゃいませ」とカウンターか言う。店には黒い制服を着た男が二人いるだけだった。
席はカウンターしかなく、ひとつ席を空けて隣に座る。

「モーニングお願いします」
「お飲み物は何にいたしますか」
「紅茶で」

 少しホッとする。なんだ、現代チックの江戸といったところかな。
モーニングもあるなんて私の世界と全然変わんないじゃないか。
でもあの犬はなんなんだろう。説明がつかない。なんかあまんととか言っていたなあ。

これからまじでどうしようか。はした金しか持ってないし、もちろん身寄りもない。
でもあのサングラスのおじさんに最初に出会ったおかげで、
この世界にも優しい人はいるんだっていう不確かな確実が私を安心させてくれている。

「すいません副長、おごってもらっちゃって」
「いや、いい。悪ぃな、朝だから喫茶店しか開いてなくてよ」

隣の男二人の会話に耳を傾ける。
上司と部下といったところだろうか。

キッチンの向こうでごそごそしていた店主が振り向く。

「モーニング二つお待ちどうさま」

そう言って二人の前にトーストとサラダが乗った皿とコーヒーを置いた。

「真選組の方ですね、珍しい」
「ああ」

しんせんぐみ?って新撰組?
幕末ってやつか!っていうか新撰組の副長ってかなりすごい人なんじゃないのかな?
歴史についてほとんど知らない私でもなんとなくわかる。
少しドキドキしていると、「はい、お嬢ちゃんも」と私の前にもそれを置いた。

「おっさん、マヨネーズあるか?」
「ふ、副長!」

副長と呼ばれた人の隣にいる男の人が慌てだす。
サラダにマヨネーズをつけるのに、何をそんなに慌てているんだろう。
店主も不思議そうな顔をしてマヨネーズを渡す。
私は二人を横目にトーストをかじった。

「あんた、パンにもマヨネーズつける気じゃ・・・」
「当たり前だ」

そう言うと副長と呼ばれた男は赤いキャップを外し、
ぶちゅぶちゅと音を立てながらトーストの上に大量のマヨネーズを出し始めた。
慌てていた男はうっと声を上げて口を抑え、店主は呆然と見つめる。
そして私は思わず「きも」と声に出してしまった。

「あ゛?女、何か言ったか」
「ひっ!い、いえ!何も」

もんのすごく瞳孔を開いた目でにらまれ、思わずへんな声が出てしまった。
慌てて目を逸らしてトーストにかぶりつく。
早く食べて出て行こう。

と思ったが、ついつい目がそれを追ってしまう。

(た、食べてるよ・・・!)

ききききもちわるい。なんだこのマヨネーズ男。
なんだか一気に食欲がなくなって紅茶を一口飲むと席から立ち上がった。

「ごちそうさまでした。残してすいません」
「い、いや、しょうがないですよ・・・300円になります」

そう言われて鞄から財布を取り出し、1000円札を取り出し店主に渡した。

「は?これは?」

店主は1000円札を見つめて言った。

「1000円ですよ」
「何言ってるんだい。これはどこの国のお金だ?」

しまった、と思った。サアッと青くなるのがわかる。
そうか、私の世界とこの世界ではお金が違うのか。
中途半端に似ていたから気づかなかった。

「どうしよう・・・」
「えっ!お嬢ちゃんお金持ってないのかい?」
「はい・・・」

事情を話したら信じてもらえるだろうか。
いや、無理だろう。こんな話。
すると、マヨネーズ男が店主から1000円を奪った。

「食い逃げかあ?真選組の前で上等じゃねえか」
後ろからもう一人が覗き込む。

「円って書いてありますよ?外国のお金というわけじゃなさそうです」
「偽札か?」
「でもそれにしては柄がまったく違うでしょう」
「んなこたあ、わかってんだよ!」

マヨネーズ男は私を見る。

「てめえ、なんのつもりだ」
「え、えっと・・・」

答えようがなく、目を泳がす。

「変な格好してるし、天人か」
「ああああまんとではないです」
「金持ってねえんだな?」
「はい・・・」

そう返事をすると男は振り向き、後ろにいる優しそうな人と目配せする。
そして後ろポケットから財布を出しお札を二枚出し、店主に渡した。

「こいつと俺らの分だ」
「!あ、ありがとうございます!!」

めっちゃいい人!
お礼を言うと、男はニヤリと笑いこっちを見た。

「俺らが食べ終わるまで待ってろ。連行して事情を聞いてやる」
「れんこう!?」


2009-03-06

二人は張り込みが終わった後でした。