染まるよ



...05


「あんなどこにでもいそうな女なんか買って、奴らはどうするつもりだったんでィ」

会議室で沖田総悟は言った。向かい側には土方が煙草をふかしている。
その隣で山崎がメモを取っている。

「山崎ィ?俺は男だと聞いていたんだが」
「お、恐らく攘夷浪士の手違いだと思われます」

土方の問いに山崎は青くなりながら答える。
灰皿の上に煙草を潰す。かなり苛立った潰し方だ。
横目で見ながら山崎は続ける。

「元々買う予定の人間は男の歴史学者でした。あっちの世界では天人がいなく、外国勢力に
 圧迫されながらも人間独自の発展を遂げている。攘夷派の人間にとってはいい情報屋でしょう。
 しかし実際に来たのは彼女。これが不幸中の幸いといいますか、攘夷浪士に捕まる前にこちらが接触に成功したわけです」

「しかし何でまた上の連中は直前でその情報を渡してきやがったんだ。
 こんだけ情報を揃える前に、奴らのアジトを潰せただろう」

 直前に渡された情報にしては多い資料。そのときにはアジトを潰す時間などなく、
仕方なく向こうから流される人間を攘夷派に渡さないよう作戦が取られていた。

「幕府の上の連中・・・天人、もしくは徳川の攘夷派と似たような思想を秘めている奴が欲しがる人材だろう。
 天人にとっては異次元からの研究の対象、徳川の人間にとってはでかい顔をした天人を追い出すための情報になるかもしれん」
「上は何て言ってるんですかィ」

近藤はため息をついた。

「攘夷浪士から保護しろとだけだ」
「帰せねえんですかィ」

沖田はあくびをする。土方はため息をついた。

「バカ言え総悟。女一人のために、幕府がそんな金のことやるかよ。保護しろっていうのは危険になったら殺せって意味だよ」
「その通りだ」
「近藤さん、あの女どうする気だ?」

少し間を置いて近藤は言った。

「全力で護る!」

土方は笑った。

「あんたならそう言うと思った。でもな――」
「うわあああああっ」

突然男の叫び声が聞こえ、近藤の言葉は遮られる。
何事かと思い土方が会議室から顔を出すと、そこには任務から帰ってきた10番隊の面々が縁側に立っていた。
なぜか着ている隊服はびしょ濡れで。

「どうしたんだ原田」
「いきなりこのお嬢ちゃんに」

原田が指をさす方を見ると、ホースを持って慌てるが目を大きくして立っていた。
すぐに眉間に皺のよりすぎた土方に気づき慌てふためく。


「ご、ごめんなさい!女中さんに何か手伝うことないか聞いて花に水をやるように言われて!」

睨みつけるとひっと声をあげた。

「局長、誰ですかあ?この子」
「ああ、今日から屯所に住むことになったさんだ」
「え!本当ですかあ!」

女だあ!!と水をぶっかけられにも関わらず大喜びする隊士たち。
彼らに怒られると思っていたは唖然とする。
そして近藤はハッハッハッと大きく笑った。

「いいじゃないか!心配することはなにもねえよ!男だらけのムサい屯所に花が咲いただけの話さ!」
「なにもねえって・・・ぶはぁっ!?」

土方の顔面にものすごい勢いで水が当たる。

それを避けてみると、ホースを持つの手の上に総悟の手がかぶさっている。

「上出来でさァ。あいつは真選組の悪。一緒に倒しやしょう」
「へ?」
「総悟オオオオオオオオオ!!!」

あの形相で追いかけられても涼しい顔で逃げる少年に、は思わず感心する。

さん」

後ろから声をかけられて振り向くと近藤がニカッと笑っていた。

「は、はい!」
「真選組にはこんなふざけた野郎ばかりだが、悪い奴はいねえ。
 ここにいる間は、安心して俺たちに頼ってくれ」

は笑顔でうなずいた。


2009-03-10

出会い篇完。次はお仕事篇です。