染まるよ



...06



「あんた、もう手伝いに来なくていいから」
「え?」

 女中のトミさん(52)は苦い顔をしてそう言った。

「あんたが手伝うとねえ、仕事が減るどころか増えるんだよね」

 屯所に住むようになってから1週間。
 働かざるもの食うべからずという座右の銘(もちろんできたのは一週間前だけど)に
則って、慣れない女中さんの仕事、つまり炊事洗濯掃除を自分なりに手伝ってきたつもりだった。

 しかし私はこれまでまったく家で手伝いをしてこなかったのが仇となり、
ご飯もろくに炊けない、皿洗いでは皿を割る、干した洗濯物は飛んでいく、
掃除をすればゴミが増えるという有様で、毎回トミさんに「まったく最近の子は!」って
ぐちぐち言われながら頑張ってきた。まあ自覚はしていたけれど、やっぱり邪魔だったみたいで。


「どうしたんだ?ちゃん」
「原田さん・・・」

落ち込んで縁側に座ってボーッとしていると、ここに来た初日に仲良くなった原田さんが来た。
あれから十番隊のみなさんとは、屯所内で一番仲良くしてもらっている。

あの幹部の人たちは山崎さんを入れてどうも苦手だ。
よそよそしいというかなんというか。変に気を遣っていて、沖田さんにいたっては目も合わそうとしない。
年が近いから仲良くできると思ったのに、沖田さんはなんか大人びていて怖い。

「外には働きに行くなって言われるし、このままじゃ私ただのニートだよ・・・」
「そうだなあ・・・」
「前はウエイトレスとかバイトしてたんだよ!何か役に立てることないかなあ」
ちゃんのウエイトレスかあ、いいねえ」
「ちょっと原田さん、聞いてます?」
「ああ、聞いてるさ、聞いてる!」

顔を赤くして慌てる原田さんに思わず笑ってしまう。

あの人たちに比べると、原田さんほか十番隊の人たちはとっつきやすい。
何かと構ってくれてすぐに打ち解けれた。
どこかガツガツしてるのが難点だけど、屈託なく笑う彼らはクラスメイトを思い出させてくれる。

ちゃんができることなんて山ほどあるさ。ゆっくり見つけていけばいい」

原田さんの優しい言葉に救われる。
こんな優しい人たちに匿われて、かなり私は運がよかったと思う。
私にもできること、見つかるといいな。


 数日後の夕飯は、十番隊の人たちが任務中で一人で食べていた。
ごはんにからあげ、味噌汁。トミさんが作ってくれる料理はとてもおいしい。

「いいご身分ですねィ」

私の向かい側に沖田さんが座った。
自然と体が少し身構える。

「『お手伝い』はやめたんですかィ?今日はトミさんの怒鳴り声が聞こえやせんでした」
「えっと・・・」
「いいですねィ。俺たちの給料で三食食べれて昼寝付きですかィ」
「・・・」

嫌味を言っているのがわかる。

でも今の私には言い返せなかった。

「図星ですかィ。つまんねえ女」

私は食べかけの料理を残して箸を置き立ち上がった。

「へえ。残飯も出すと来た。トミさんが可哀相でィ」
「ちょっと沖田隊長!言い過ぎですよ!」

後ろで話を聞いていたのか、山崎さんが振り向く。
私はその席から離れ、違う席に座った。

「本当のことを言ったまででィ。女中としても使えない女、匿うだけ無駄でさァ」

もっともだ。

やっぱりそう思われていたんだ。


私はトミさんのカラアゲを必死に口に押し込んだ。

2009-03-10