染まるよ



...09


 勉強することを楽しみにしている十番隊士を見て、非番に何もすることのない隊士は の元に続々と集まっていた。
 それを見た近藤の計らいで、は正式に真選組隊士へ勉学を教える教師として雇われることになった。
がしかし、の持っている教科書ではレベルが高すぎるため、 隊士のレベルに合わせた教材を買いに行かなければならなくなった。

「なんで俺がついていかなきゃならねえんでさァ」
「総悟ーちゃん頼むぞー」

それはこっちのセリフだとは思った。
久しぶりに外に出れるというのに、よりにもよってなんでこいつなんかと。

「おい、口に出てるぜ」
「えっ」

は口を抑える。沖田は気にもせず飴を舐め続ける。

「どいつもこいつも勉強勉強って俺にはわかりやせん。机の前でじっとしてるなんざ、ごめんだねィ」
「忍耐力が足りないんじゃん」
「てめえ誰にどういう口の聞き方してんでィ」
「直属の上司は近藤さんと土方さんだけなんですぅ。尊敬している人しか敬語はつかいませーん」
「俺が尊敬に値しないってのかィ?」
「とーーぜんっ」

勝ち誇ったように笑うを、沖田は表情を変えずに見つめる。
 表情が明るくなったと沖田は感じた。

「もう文句言われる筋合いないもん。トミさんのご飯何回もお代わりしてやるもん」
「あ?」

の言葉で、そういえばあんなこと言ったなと沖田は思い出した。
だからこいつあんまり食べてなかったのか。女ってよくわからない。
いや、こいつがよくわからない。

「・・・変なヤツ」
「なんかいった?」

顔を覗き込むから沖田は目線を逸らす。そしてニヤリと笑った。

「気に入ったって言ったんでさァ」


最初はそのへんにいる平凡な女としか思わなかった。
ちょっかいを出そうとも思わなかった。土方だってきっとそうだったろう。
別段気にかけた様子はなく、どちらかというとうっとおしいと感じていたにちがいない。
でもいつのまにか、この女は隊士に囲まれているような存在になっていて。

女という性別のせい?いやちがう。
こいつの中にある、何かに惹かれているのだろう。
そう、例えばあの男に似ている―

「こっちにもジャンプあるんだあ!」

いつの間にか本屋に着いていたようで、は漫画コーナーに駆け出した。
沖田はその後ろからついていく。

「あ、旦那」
「んあ?」

ジャンプを手に取るの隣には、同じくそれを立ち読みする男がいて。
銀髪にやる気のなさそうな表情、坂田銀時だった。
は「知り合い?」と二人の顔を見比べる。

「総一郎くんじゃないの。どうしたのこんなとこで」
「総悟です、旦那」
「プッ総一郎くん」

噴き出すに軽くチョップをいれる。
その様子を見てははあんと銀時はニヤッと笑う。

「なになに?彼女ォ?」
「死んでもこんな女彼女にしやせん」
「はあっ?こっちのセリフですぅ!」

違うの、とガッカリしたようにいう銀時に、沖田はとーーぜんと返す。

「真選組でお世話になってますです」
「俺はこういう者です、よろしくねん」

そう言って銀時は懐から名刺を取り出しに渡した。
は名前を読み上げる。

「万事屋・・・坂田銀時さん?」
「そ、なんでも屋。銀さんでいいよ、ちゃんは女中さん?」
「うーんと、隊士さんに勉強教えてます」
「べんきょお!?」
「こいつ異星の人間でうちで保護してんでさァ。やることがないってんで、隊士が付き合ってんです」
「あ、そーなの。だよねェ、あいつらが勉強なんざ笑っちゃうぜ。それにこんなお嬢ちゃんにねェ」
「違うよ!ちゃんと雇われてます!隊士さんたちちゃんと勉強してます!」

あーはいはい、と笑う銀時にはムッとする。 どうやら彼は信じてないようだ。まあ仕方ない。
こんな小娘に勉強を教えてもらう真選組隊士なんて想像つかないのだろう。

「銀さーん」
「見つかったアルかー?」
「げ、チャイナのお出ましだ」

沖田が嫌そうに言った。
沖田は知り合いが多いなとは声のする方を見ると、赤毛のチャイナ服を着て傘を振る女の子と眼鏡をつけた男の子がいた。

「あーあクソガキに会うなんて最悪アル」
「こっちのセリフだぜィ」
「沖田さんこんにちは。あれ、そちらの方は?」
「真選組の先生だとよ。はーいお前ら先生に挨拶しろー」
「先生アルか?それにしては若いヨ」
「はじめまして。僕は志村新八、こっちは神楽ちゃんです」
です、よろしく」

新八がお辞儀するのにつられてもお辞儀をする。
礼儀正しい男の子だ、とが感心していると沖田がの服の袖を引っ張った。

「オイ、さっさと行くぜィ」
「あ、うん。じゃあ、またね銀さん、神楽ちゃん、えーと・・・」
「新八です!」
「あはは、またね!新八くん!」

は「待て!総一郎!」と言いながら本屋に入っていった。

「コロコロ表情変わる奴だなあ」
「銀ちゃん、先生何の先生アルか?」
「何の先生かは知らないけど、真選組に入ってるんだとよ」
「ほう、保育園の先生アルか!先生大変ネ。今度手伝いに行ってあげヨ」
「バッカお前、園児が一人増えるだけじゃねーか」
「違うネ!ガキと一緒にしてもらっちゃ困るネ!神楽先生ヨ!」
「はいはいもう早く猫見つけちゃいましょう」


これがと万事屋の出会い、沖田のとの出会いだった。

2009-03-11