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「ふくちょお、俺ラーメン食べたいです!」
「賛成でさァ。ラーメン、チャーハン、餃子、酢豚、からあげ、中華飯だけでいいですから」
「だけじゃねえだろ!奢ってやるんだから黙ってついて来い」
夜の任務から帰り、腹ペコの俺と沖田隊長、副長の三人は副長のおごりで夜食を食べに行くことになりました。
副長は一緒になるとかなりの確率で奢ってくれるからありがたい。
ありがたいが、まあ俺が思うに他に金が使うところがないんでしょう。
「なんか言ったかァ?山崎ィ」
「俺、今何もいってないでしょおおお!」
「あ、」
その声で、副長の俺の胸倉をつかむ力が抜ける。
二人に続いてそっちを見るとちゃんがバスタオルを被って風呂から出てくるところだった。
「おい」と隊長が声をかけるとちゃんは隊長の声に不快感を露にした顔でこちらを向いた(頬が赤くてかわいい)。
その顔を見るなり、隊長はちゃんの元にいき髪を引っ張る。
「なんでィその顔は」
「いたいたいいたい、離して総一郎」
「総悟でィ」
「だーー!強く引っ張らないで!抜けるゥ!!」
こうなると誰にも止められないので俺と副長は傍観する。
そのあと、沖田隊長はちゃんに「総悟、総悟様、総悟工場長、沖田神、ご主人様」と呼ばせてようやく彼女を解放した。
痛みが残っているんだろう、頭を抑えながら副長と俺の方を向く。
「任務ご苦労さまです・・・」
「お前もな・・・」
「まったくです。じゃあおやすみなさい」
ちゃんがくるっと方向を替えると副長が「待てよ」と言った。
何事と思い、俺も隊長も副長を見る。
「今から夜食食いにいくんだけどよ、お前もくるか?」
「え?夜食?」
ちゃんの目が輝く。
俺は少し驚いた。だって、この人が奢る人数を増やすのは珍しい(実は副長はケ・・・堅実家だったりする)。
いつもは、奢ってもらったあと「おまえ、誰かに奢ってもらったとか言うんじゃねーぞ」とまで言う人が。
副長の顔を見ると、少しだけ口角が上がっているように見えた。
「奢ってやるよ」
「ほんと?いきます!」
副長に沖田隊長に俺とちゃん。
副長と沖田隊長は屯所にいるときは大体自室か近藤局長の部屋にいて、食事も各々で食べている。
俺は仕事で屯所にいないのも普通の食事の時間が合わないこともしょっちゅうで、ちゃんは原田たち十番隊といることが多い。
なんだか珍しい組み合わせで違和感を感じてしまった。
「ラーメンと餃子と酢豚とからあげと・・・」
「待て待て待て待て待て」
「、それは俺の役割でさァ」
「これぐらいも払えないなんてどこにお金使ってるんですか?」
「違ぇよ、お前夜だぞ。そんなに食ってどうすんだ。バカか。お前はバカか」
「バカっていう方がバカなんです〜」
「じゃあお前もバカだ」
「土方さんのがもっとバカです」
「なに、ちゃんそのぞうさんはもっと好きですみたいな言い方」
「おっさん、ラーメン4つな」
「あ、逃げやした。土方逃げやした」
「いくじなし〜」
「お前ら自腹な」
「「ごめんなさい」」
ペコリと二人は頭を下げる。いつもなら沖田隊長はこんなことで副長には頭をさげないけど、
お酒のせいかな、それにちゃんに合わせるのを楽しんでいるように見えた。
「どうだ、真選組慣れたか」
「そうですね、総一郎くんにはまったく慣れませんけど」
「大丈夫だ、十年程一緒にいるが俺は未だに慣れない」
「毎日サプライズを演出してやってんでィ」
「ものすごくありがた迷惑だな」
「勉強会はどうなの?」
「すごく楽しい。教えるなんてほとんどしたことないから、毎日お互いに試行錯誤だけど」
おじさんが「ハイ、おまち」と言ってラーメンを置いた。
ちゃんは嬉しそうに箸を割る。
「それにしても、いいですよね」
「俺が?」
「断じて違います」
「何が違うんでィ」
沖田隊長を無視してちゃんは続ける。
「私は見たことないけど、きっとみなさん、外ではずっとピリピリしてるんですよね」
「いや、そーでもないがな」
副長はため息をつくように言った。特に彼女の隣に座る人のことを指しているんだろう。
ちゃんもそのことがわかっているようで、笑って頷く。
「でもその反面、屯所は優しい場所で」
俺はラーメンをすする手をとめて彼女を見た。
屯所が優しい場所?どこが?怖い人だらけでしょう。
ていうか、今朝あなた沖田隊長に襲われたばかりでしょう。
「きっと一人ひとりが真選組を大切に思っていて、そういう場所であってほしいって思ってるんだろうなーって。
私、そういう人たちと一緒にいれてすごい幸せです」
その一言に、彼女が言いたいことがわかった。
俺も、副長も、きっと隊長も。
彼女は人よりなんとなく感じることを言葉にするのがうまい。
自分ではもちろん気づいてないのだろうけど、それはまるで陰に咲く花に日を当てるようなもので。
日頃、一緒にいることが多い原田も言っていた。
写真に撮って一枚一枚見なきゃわからないことも、ちゃんは見逃さねえんだよ。
「お前も貢献してるよ」
副長は器を持ち上げ、スープを飲み干した。
「貢献?」
「ああ、と」
「もちろん!屯所に待ってる人がいると思うと、早く帰りたくなってしまうものだ!」
突然ゴリラっぽい声がして振り向くとやっぱりゴリラだった。
「近藤さん」
「ひどいよ、トシ〜。俺を置いてくなんて」
「あんたがあの女のとこに行ってたんだろ」
「さすがゴリラですねィ。寄り道なんてもうさっき言ってたことと矛盾してらァ」
「あ!いまゴリラって言った!言ったよね!」
「総一郎くん、だめ。こういう時にゴリラを使うと話逸らす手段にされるよ」
「ちゃんんん!????」
「いっけね、俺としたことが」
なかなか個性が強いメンバーだけど、なんとなくちゃんのペースにもってかれる。
副長と局長の言ったとおり、彼女ももうちゃんと屯所の空気を作る一員なのだ。
「山崎さん、メンマあげる」
「あ、俺嫌い、」
「俺もあげまさァ」
「え、ちょっと」
「しょうがねぇな、もう食っちまったからくっついたネギやるよ」
「ちょっとおおお!」
そして俺も、一員なのだ。
2009-03-16
山崎篇終了!一日を追ってみました。