染まるよ



...15




「お、ちゃん、おはよう」
「ふああ、おはよ」

今日も朝から総一郎のバズーカ音と山崎さんの叫び声で無理やり起こされる。
洗面所に行けばみんなが列をなして番を待つ。
私は朝に強い原田さんの後ろに並ぶ。
もう既に日常となった毎日。

ここに来てもう三ヶ月ほど経つ。

教師としてもだいぶ板についてきた。
といっても未だに算数しか教えていない。
以前に南蛮語(私の星で言えばほぼ英語だ)を教えてほしいと
隊士さんに頼まれたし、私自身他の教科も教えてみたいと思ったけど、幕府からは許可が下りなかった。
よくわからないけれど、未だに私は怪しまれているのかもしれない。

しょうがないことだけど、私は真選組の一員なのに。

「最近、進むの遅いよね」
列の先を見ながら言った。
「ああ」

原田さんはニヤリと笑う。

「お清ちゃん効果だよ」
「あ!なるほど」

お清ちゃん。先週真選組に新しい女中さんだ。
運悪く私はまだ見たこともないけれど、隊士さんから聞けば、
年は私より少し上で、よく働いて気が利くとても可愛い子。
その子が来てから、みーんないつもそわそわしている。
洗面所の列の一番前の方を見れば、鏡を見て一生懸命髪をセットする隊士さん。
そりゃ動かないはずだ。

おもしろいといっちゃおもしろい光景だけど、私としては、

「つまんねぇよな。ちゃんのときとはえらい違いだ」
「カンケーないもん!」

ニヤニヤする原田さんの背中にパンチを入れる。

「いってーなにすんだよ!」
「あ、ほら原田さんの番だよ!早く髪の毛セットしなきゃ!」
「うるせー!俺はボーズだ!」
「ハゲ隠すなよ原田ー」
「沖田さんまで!」
「もう原田さんはハゲしい人だなー」
「なにうまいこといってんだよ!」
「原田、俺がハゲましてやるよ」
「うっせー山崎のくせに!もう俺は怒った!」
「うわ!ちょ、濡れるぅぅ!」

髪の毛に敏感な原田さんは怒り出し、蛇口に親指をあて水をぶっかけ服はびしょ濡れになった。
(ちなみに総一郎にはやらなかった)(山崎はうまく逃げやがった)


庭のもの干し竿に寝巻きを干していると「おはようございます」と聞きなれい声が聞こえて振り向いた。
そこにはきれいな女の人が立っていて。

「おはようございます」
先生ですね、新人女中の清と申します」
「あ、はい。よろしく」

にっこり微笑むお清さんに思わず見惚れてしまう。
仕事着がカッコよく見えてしまうくらいだ。噂以上の女の人。

「どうなさったんですか?」
「いやあ、原田さんて知ってます?なんかあの人からかってたらこんなんなっちゃって」

そう言うと、お清さんは少し動きが止まり目だけ動いた。
けれどすぐに知ってますよ、と笑った。今の間はなんだったんだろうと思う。
笑い方を見れば、本当に優しそうな人だ。

「えっと、これから仲良くしてくださいね!」

少しドキドキしながら言った。寝巻きの方に視線を寄せながら。
けれど、お清さんの返事は予想と反していた。

「ああ、それはお断りします」
「え?」

びっくりしてお清さんの顔を見る。
さっきとはうってかわって無表情だった。

「隊士さんと仲いいのよね。だったら、難しい話だわ」

意味もわからずポカンと立ち尽くしていると、向こうで山崎さんが私を呼んだ。
何も言わずに私は山崎さんの方へ行く。

「お清ちゃんと何話してたの!?」
「う〜ん、なんでもない」
「え、なにそれ」
「私も、よくわかんない」

けど、あまりいい予感がしないのは確かだった。


2009-04-05

自覚篇、スタート