染まるよ



...16




「朝だよ、起きな」

朝には聞きなれないその声に目を覚ましてみれば、目に入ったのはトミさんだった。
時計を見れば、食事の時間はおろか勉強会の時間も過ぎていて。

「え!?なんでこんな時間!」
「安心しな。先生はお休みだ」
「休み?」

聞き返した言葉に答えずに、「ついてきな」と言ってトミさんは廊下に出て行く。
私は慌てて寝巻きのまま追いかけた。
廊下に出ると、出勤時間とはいえ屯所の中はお日様が当たってるとは思えないくらい、暗く感じた。

「私らは隊士じゃないから、朝突然知るのさ」

その言葉で私はわかった。たぶん、何か事件が起きたかでほとんどの隊士はいなくなったんだろう。

「私が起きたときはもっといたんだよ。でも次々と出てった」
「それって、」
「いつものことだ、心配しなくていい。でもけが人は必ずいるから、医者が到着するまでにできることを準備する」
「手伝います!」
「当たり前だよ、真選組総動員なんだ。仕事ができようができまいが、今日は無理やり働いてもらう」

いま、みんなは命を張って戦ってるのだろうか。
そう思うと胸が張り裂けそうになる。
お願いだから、みんな無事で。


それからすこしあと、屯所内の一番広い集会所で消毒液などの準備をしていると隊士さんが飛び込んできた。

「今戻りました!死者ゼロ!が、けが人多数!重傷者×名・・・」

背筋がゾッとした。それ以上の言葉は耳に入ってこなかった。
トミさんや残ってい隊士さんたちは慣れているようで準備を続ける。
私は入ってきた隊士さんを呼び止めた。

「なにが、あったんですか?」
「悪ィな。それはまだ教えられねェ」

振り向けば土方さんがいて目を閉じて煙草を吸っていた。

「土方さん、」
、お前は部屋に戻ってろ」
「なんで、お手伝いします!」
「慣れてねえんだ、面倒を増やされたら困る」
「そうね、あんたはまだ準備まででいい、下がりな」
「はい・・・」

土方さんとトミさんに言われ、私は集会所から出て行く。

「どいて!」

その声に驚いて、廊下に出た瞬間私はすぐ集会所へ体を引っ込める。
目の前になだれ込むようにして隊士さんたちが入ってきた。

「うっ」

鼻につく、はじめての血の匂い。
それに捕まるように、そこから動けなくなる。

「誰か新しい布!」
「包帯足りねえぞ!」
「先生、こっちにも来てくれ」

集会所は一気に騒がしくなる。みんな必死に走り回る。

(あそこで寝てるの、青木さん・・・!)

(植野さんの足が!)

いつも会議室で一緒に勉強していた、みんなの苦しそうに呻く表情。
怖い、と思った。
こんな間近で人が苦しんでいるのは、初めて見た。

手伝わなきゃいけないのに、どこかに行かなきゃいけないのに、体が動かない。
怖い。


、そこにいたら邪魔でィ」

名前を呼ばれ、ハッと気づけば総悟が目の前に立っていた。

「ごめっ・・・!総、ご、血!」

総悟の胸元には血が飛び散っていた。

「心配すんな、返り血だ」

そう言って、総悟は私の頭を撫でようとした。
でも私は、

「やっ!」

思わず体が引いてしまって。

・・・?」

総悟が見たこともない、驚いた表情をする。

「人を、ころしたの?」

その問いに、総悟は眉を顰めた。

「殺らないと殺られるだろィ」

総悟は視線を逸らしながら答えると、行ってしまった。
私は自分が何を言ったのか、わからなかった。
ただとっさに、思いつくままに話していて。



気づいたときには、自室の隅っこで震えていた。




2009-04-05

むずかしいとこ。