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私と土方さんは昼食をとると、門から外に出た。
門番の隊士さんは土方さんに頭を下げる。
土方さんがパトカーを出しにいくと、隊士さんは私に笑いかけた。
「ちゃん、副長とデートか?こんな若い子となんて副長が羨ましいね」
申し訳ないと思いながらも、今の私には作り笑いしかできなかった。
「そうなんだ。なに貢いでもらおうかな、でも土方さんケチだし」
「違ぇねえ」
彼のこの、大げさに笑う仕草が好きだ。
「お、ちゃんどこ行くんだー?」
「副長とデートだと。沖田隊長が聞きつけたら大変だ」
「違ぇねえ」
二人はニヤニヤと笑った。私も彼らの口癖に笑う。
そのとき、向こうからブオンブオンとチンピラ警察らしい音を立ててパトカーがやってきた。
「じゃあ、いってきまーす」
「おう、気をつけてなー」
手を振って、彼らの元から走ろうとするとグイッと腕が掴まれる。
振り向くと朝から屯所にいなかったはずの山崎さんがいた。
「山崎・・・さん?・・・おかえりなさい」
彼の珍しく真剣な表情になぜか不安になる。
「どこ行くの?」
「ちょっと、副長とデート、みたいな」
彼の表情に敏感になる。
なんとなく動揺して、土方さんを副長と呼んでしまう。
「山崎さんどうしたんですかー?ヤキモチですかー?」
門番の隊士さんの声に、山崎さんはハッとした表情をして腕から手を放した。
山崎さんは茶化しに答えてから、もう一度私を見た。
「なんかあったらいつでも俺に言ってね。俺は、わかってる、から。わかってる、つもりだから」
そのとき、パトカーのクラクションが鳴る。
それを見ると、中でこちら(たぶん、主に山崎さん)を睨みつける土方さんがいた。
私は、一歩山崎さんから下がるけど、やっぱり何も言えなくて、何もできなくて、黙って走って行った。
乗り込んだ瞬間に動き出したパトカーの勢いに、私は座席に座らされる。
エンジン音だけが響く。それは、心地のよいものじゃなかった。
「・・・山崎さん、ヤキモチ妬いてるって」
笑いながら言った。
土方さんもは「は、違ぇな」と笑う。
「わかってんだろ、山崎は」
その言葉が痛くて、思わず右手で目を隠した。
顔をあげて、座席に深くもたれた。
「なん、で、わかっちゃうのかなあ」
「ああ?大人をナメんじゃねーぞ、ガキが」
「・・・ガキじゃないもん」
信号で車が止まったのか、雑音が急に消える。
「ガキじゃねーな」
右手に暖かいものがかぶさった。それは、土方さんの右手だった。
ゆっくりと、それは私の手を引き上げる。真っ暗だった視界に、光が差し込む。
すぐ目の前に、土方さんの顔があった。
彼は、私の表情を見て目を細めた。
「頼むから、屯所にずっといてくれねえか」
なんでそんな表情をするんだろう。
どうしてそんなことを頼むのだろう。
だって、あなたにとって、私は、真選組がなんとなく気まぐれで恐くなっただけで、
「・・・ちょっと、休むだけでしょう」
彼の頼みは、私の違和感を、ずっと形のあるものにした。
彼の表情は、謝っているように見えた。
でも私は、許せる気がした。
だってだって、この手の温もりを、逃したくなかったから。
2009-05-12