染まるよ



...22




私と土方さんは昼食をとると、門から外に出た。
門番の隊士さんは土方さんに頭を下げる。
土方さんがパトカーを出しにいくと、隊士さんは私に笑いかけた。

ちゃん、副長とデートか?こんな若い子となんて副長が羨ましいね」

申し訳ないと思いながらも、今の私には作り笑いしかできなかった。

「そうなんだ。なに貢いでもらおうかな、でも土方さんケチだし」
「違ぇねえ」

彼のこの、大げさに笑う仕草が好きだ。

「お、ちゃんどこ行くんだー?」
「副長とデートだと。沖田隊長が聞きつけたら大変だ」
「違ぇねえ」

二人はニヤニヤと笑った。私も彼らの口癖に笑う。
そのとき、向こうからブオンブオンとチンピラ警察らしい音を立ててパトカーがやってきた。

「じゃあ、いってきまーす」
「おう、気をつけてなー」

手を振って、彼らの元から走ろうとするとグイッと腕が掴まれる。
振り向くと朝から屯所にいなかったはずの山崎さんがいた。

「山崎・・・さん?・・・おかえりなさい」

彼の珍しく真剣な表情になぜか不安になる。

「どこ行くの?」
「ちょっと、副長とデート、みたいな」

彼の表情に敏感になる。
なんとなく動揺して、土方さんを副長と呼んでしまう。

「山崎さんどうしたんですかー?ヤキモチですかー?」

門番の隊士さんの声に、山崎さんはハッとした表情をして腕から手を放した。
山崎さんは茶化しに答えてから、もう一度私を見た。

「なんかあったらいつでも俺に言ってね。俺は、わかってる、から。わかってる、つもりだから」

そのとき、パトカーのクラクションが鳴る。
それを見ると、中でこちら(たぶん、主に山崎さん)を睨みつける土方さんがいた。
私は、一歩山崎さんから下がるけど、やっぱり何も言えなくて、何もできなくて、黙って走って行った。

乗り込んだ瞬間に動き出したパトカーの勢いに、私は座席に座らされる。
エンジン音だけが響く。それは、心地のよいものじゃなかった。

「・・・山崎さん、ヤキモチ妬いてるって」

笑いながら言った。
土方さんもは「は、違ぇな」と笑う。

「わかってんだろ、山崎は」

その言葉が痛くて、思わず右手で目を隠した。
顔をあげて、座席に深くもたれた。

「なん、で、わかっちゃうのかなあ」
「ああ?大人をナメんじゃねーぞ、ガキが」
「・・・ガキじゃないもん」

信号で車が止まったのか、雑音が急に消える。

「ガキじゃねーな」

右手に暖かいものがかぶさった。それは、土方さんの右手だった。
ゆっくりと、それは私の手を引き上げる。真っ暗だった視界に、光が差し込む。

すぐ目の前に、土方さんの顔があった。
彼は、私の表情を見て目を細めた。



「頼むから、屯所にずっといてくれねえか」


なんでそんな表情をするんだろう。

どうしてそんなことを頼むのだろう。


だって、あなたにとって、私は、真選組がなんとなく気まぐれで恐くなっただけで、

「・・・ちょっと、休むだけでしょう」



彼の頼みは、私の違和感を、ずっと形のあるものにした。

彼の表情は、謝っているように見えた。

でも私は、許せる気がした。

だってだって、この手の温もりを、逃したくなかったから。


2009-05-12