染まるよ



...21




「ごめんなさい、雨の日に」

襖を閉め、まだ眠たそうな瞼をこすりながらは言った。
外は雨が地面を鳴らしている。
銀時は「おお」とだけ返事をして朝食を取り続けた。

「さあさあちゃんも座ってすわって」
「ありがとう、妙ちゃん」
「姉御!味噌汁うまいアル!料理上達したか?」
「か・・・神楽ちゃん」
「それは新ちゃんが作ったのよ、私が作ったのはこれだけ」
「え、それ、料理なの?え?妙ちゃん?」
「朝起きたらもう新ちゃんが台所に立っていてね、残念だわ〜ちゃんに私の手料理振舞おうと思ったのに。でも、これ一番得意なのよ、うふふ」
「うふふ・・・ってえ、え、なに、三人とも私の肩に手を置いて」
「恒道館にきたら誰もが通る道だ・・・」
「僕も早起きして努力しましたが、すいません・・・被害を最小限に留めたつもりです・・・」
「ゴリラは喜んで食べてるネ!だから多分死なないネ!」

はおそるおそる妙の方を見る。
黒い物体(あえて、料理名は書かないでおこう)が乗った皿を差し出した妙が微笑んでいた。

「やーね、神楽ちゃん。毒が入ってるわけでもあるまいし、死ぬわけないでしょう。ほら、どうぞ」

はピクピクと顔を動かしながら、それを口に放り込んだ。

「ん・・・・んんぐ!!!!」

目の前で青い顔しながら口を抑えて転がり込むを見て、銀時はまた優しく笑い、新八の味噌汁をすすった。


昨晩、晩酌をかわしながらぽつりぽつりと話し始めた彼女の話に耳を傾けていた。
真選組を思い出して語るとき、その目はとても優しかった。
真選組に護られ居心地がよくても、決して甘えない、染まらない芯の強さと、
まだ幼さがやんわり残る、月を見上げる彼女の横顔の違和に銀時は見惚れた。

そして、彼女の話を聞いて銀時はふと疑問に思う。

どうしてお互いの立場を彼女は理解していながらも真選組に戻らないのか、と。
煉獄館を知り、真選組の正義を知り、それ上で彼らの間を隔てるものは一体なにかを。

「なんなんだろうね。私も何もないと、思いたい」

銀時は黙って酒を口に流す。

「よく考えたら、こんなにも早くこの場所に慣れるっておかしいんだよ。ま、けっこう図々しい性格してるけどさ」

ちらりと見たの横顔は、いまにも泣きそうで銀時は思わず声をかけそうになるが、「似すぎてるの」という言葉に遮られた。

「似すぎてるんだよ、ここは。ほら、あの月を見上げて、みんなと同じ空気で生きてるの。同じ星としか思えないよ」

は笑って目頭を手で抑えた。

「みんなが私に何か隠して幕府の中で真選組を護るなら、私も真選組の中の自分を護りたい」


めんどくせー奴だなと銀時は笑った。
けれど、彼女の順応性には彼自身も首を傾げるところがあった。
の話を聞いて納得する。
そんなに似ているなら、遠い星からの迷子という立場を疑問に思うのは仕方がないのだ。
まるで、タイムマシーンに乗ってきたかのような話だった。



「おい、そろそろ行くぞ」
、今日はなにして遊ぶヨ?」
先生はな、自分探しの旅に出たいそうだ」
「え、なにその臭いネーミング!いや、間違ってないけども!あ、またお腹が…」
「大丈夫ですか!さん」
「あらー、どうしてかしら。さっきまであんなに元気だったのに」
!大丈夫か!」
「うん・・・大丈夫だよ。あのね、神楽ちゃん、新八くん、お妙ちゃん。手伝ってほしいことがあるの」

は、頷く代わりに微笑む三人にホッとした表情を見せた。



2009-05-12